遺伝子治療の基本原則は、原因遺伝子が特定されて分離もされ、これに対抗ないし代替できる遺伝子をベクターなどに積んで細胞内に導入できる状態にあることである。
したがって、不特定多数の遺伝子が原因とされているうちは、″ガン細胞を治す″ことはできない。 しかし対象が″人類の敵″とまでいわれる病気だけに、研究者はさまざまな角度からガン細胞へのアタック法を研究している。
そのおかげで、ガンの発生を調べたりガンになりやすい体質を検査する技術では、異常化した遺伝子を直接チェックする方法が実用化しつつある。 しかし残念ながら、ガンを起こす異常な遺伝子の代わりに正常な遺伝子を入れる、あるいは異常遺伝子の配列を正して普通細胞に戻す、などの直接的な治療方法についてはメドが立っていない。

そこで、ガン化を止めたりガン細胞を治すという発想はひとまずおいて、発生したガン細胞を免疫の力によって確実に殺そうとする、間接的な遺伝子治療の研究が多く進められている。 アメリカの国立ガン研究所のS・L博士は、ガンの免疫療法の権威として世界的に知られている。
「ヒトの免疫系はガンを攻撃できる」という仮説をもっとも早い時期から熱心に研究していることでも知られていて、彼が開発したLAK細胞移入療法と呼ばれる治療法は日本にも導入されている。 これまでの免疫療法には、ガン治療の主役になるほどの効果は期待できず、外科手術と併用する補助的な治療法の立場に甘んじてきた。
そんなとき、L博士が免疫療法を強化する方法として選んだのが、遺伝子治療技術によって効果を高めることであった。 「ヒトの免疫システムは健全な細胞とガン細胞を識別できて、ガン細胞が体内のどこにあっても、それを標的にして探し出して攻撃する」こうL博士が説明する免疫療法のメカニズムをもとに考えると、免疫システムがガン細胞を確実に排除する道として、大きく2つの方向が見えてくる。
1つは、″ガン細胞の特徴を目立たせて健全な細胞との識別を確実にする″方法であり、もう1つが″ガン細胞を発見した免疫細胞の攻撃力を高める″方法だ。 まず最初に博士が手がけた研究は後者の、免疫細胞の攻撃力を高める方法である。
たとえばガン細胞ができると、その周囲に集まってガン細胞を破壊しようとする腫傷浸潤リンパ球(TIL)という名の特殊なリンパ球が大量に発生する。 このTILというリンパ球に、腫傷壊死因子(TNF)ガン免疫療法への応用と呼ばれる一種の″ガンの毒″を作る遺伝子を組み込んで、ガン組織めがけて送り込んでやろうというものだ。

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